理数系離れ深刻、改革案を提案

 理数系学会教育問題連絡会では、このほど「教育家庭その他わが国における教育を改善」すべく中央教育審議会および初等中等教育分科会へ改革のための提案書を出した。学力の低下が叫ばれる中、理数系科目への学習意欲の減退を懸念した同連絡会では、これを改善すべく9項目を挙げて提言した。

学力低下への改革を提案

理数系学会教育問題連絡会
 新しい教育課程が本年度から実施されるのにともない、完全学校集五日制の中で「ゆとり」ある「個に応じた」教育を行い、「確かな学力」の育成を目指すこととなる。
 しかし、昨年末に発表された経済協力開発機構(OECD)の「学習到達度調査」でも明らかになったように、学力の低下が進行しており、問題は深刻化している。そこで、理数系学会教育問題連絡会では、「学力の低下」というのは、「表現力の低下」「考えることの放棄」「学習意欲への喪失」という学習の根幹部分に関わるものと懸念し、今回の「教育改革」が「科目配当時間の削減」「学習内容の削減」などによって学力低下を加速するものとして改革を提案している。また、近年の「数学嫌い」「理科離れ」といったように、理数系の学力低下は他の学科よりも著しいため、次のような改革を明示した。

◆十分な授業時間の確保
 新しい教育課程においては、小・中学校での算数・数学と理科への配当時間数が大幅に削減され、先進諸外国と比べても明らかに少ない(図)。とりわけ科学的・論理的思考力を身に付けるべき中学校段階での悪影響が懸念されるため、少なくとも中学校の数学・理科は各学年で週4時間は取るべきである。十分な授業配当時間が確保されなければ、いかなる提案を行っても効果はないであろう。

◆教育課程は基本をふまえた系統的なものとする
 現在の学習指導要領には生徒の理解が難しいからという理由のみで基本概念の履修を先送りしている部分が多くある。たとえば、小学校の算数では、少数の乗法の扱いで桁数が制限されたため計算の意味理解が十分指導されず、数の扱いが完結しない。中学校の理科では「仕事」「イオン」「進化」といった現代科学においてきわめて基本的な概念が削除され、高等学校での学習に困難を生じている。また、「比の値」が小学校から削除されたため、分数の理論的な理解が中途半端になり、溶液の濃度の理解などを困難にしている。学問の基本を踏まえ、学習過程の系統性を十分に考慮し、このような不都合を解消するべきだ。

◆学習指導要領を現場で改善
 豊かな教育を実現するためには、学習指導要領を必要最小限のものとし、いかにより広く、より進んだ内容を学ぶかについては、それぞれの学校が自主的に決定できるようにするべきだ。新学習指導要領での算数・数学、理科の学習内容では不十分であり、改善が必要だ。

◆教科書の検定は必要最低限にとどめる
 教科書検定に際しては、必要な内容を含むことはチェックする必要があるが、教科書の内容を狭い範囲に限定しては、内容豊かで、魅力あるものとならない。

◆ゆとりある教員配置や教育環境の充実
 一学級30人を限度とする学級編成の徹底をするのみならず、ティームティーチング、習熟度別授業、発展・補充授業などさまざまの教育形態が工夫されつつあることはよいことだが、このような教育環境の実現のためにはゆとりある教員配置が望ましい。

◆十分な専門知識をもつ教員の育成
 授業をいきいきとしたものとするためには、小学校教育を担う教師が十分な自然科学の知識をもち、中学・高等学校教員が十分な教科専門知識をもたなければならない。しかしながら、前回の教育職員免許法の改定で「教科指導」の必要単位が半減したため、新任教師の専門教科の知識が不十分になっており、早急な改善が必要となる。

◆現職教員の資質向上
 教員の資質向上には現職教員の大学院での専修免許取得取得を推進し、さらに専門教科に関わる学位(博士)の取得を推奨することが有効であろう。 ◆地域・家庭教育とも連携
 学校教育において言語・知識・技能を身に付ける上でも、幼児期からの「あそび」のなかで十分な社会体験、自然体験、工作体験をもつことがその前提として本質的に重要である。しかし、このような「あそびの場」の減少により、このような体験が乏しいのが現状だ。地域・学校教育ではこの「あそび」の体験を補うという視点を採り入れる必要がある。

◆大学でも現教育課程への対応を
 大学のような高等教育機関においても、質の高い理工系専門教育のみならず、すべての学生が科学的要素を身に付けるための教育が求められている。大学でも入学試験が中学・高等学校教育の現場に及ぼす影響に留意するとともに、学生の変化に注意を払い、それに対応したカリキュラム編成をけんとうしなければならない。

◆コミュニケーション能力の低下に警鐘
 同連絡会世話人である浪川幸彦教授(名古屋大学大学院)は、「『PISA(OECD)』、『TIMSS2003(IEA)』調査結果に対するコメント」の中で、高等学校1年生に対するPISA、小・中学校生に対するTIM2003の学力調査結果はほぼ同じ傾向を見せており、従来トップレベルとされてきたわが国の学力に赤信号がともったと警鐘を鳴らしている。
 従来から同教授らが大学生を見て指摘していた「学力低下」のポイントは「言語コミュニケーション能力(とくに記述言語)の低下と学習意欲の減退」だが、その傾向が今や大学だけでなく、高等学校から、小・中学校にまで及んでいることが明らかになったと言う。また、「学力低下」の傾向はわが国だけでなく、世界的な傾向ではあるが、ただわが国のみがその傾向を助長するような政策をとってきたことに強い危機感をもっている。さらに、今必要なのは学力の状況をより正確につかみ、速やかに現行の教育政策を改革するべきだと語った。


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算数・数学、理科に対する授業配当時間の国際比較
文部科学省「データからみる日本の教育」2004年版


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このページは、Study.jp 学びタイムズ < eラーニング Labo >が2005年7月 2日 15:57に書いたブログ記事です。

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